バッハ、教会音楽書籍の紹介

バッハと教会音楽に関連した書籍を紹介します。といっても、私が所持している本が中心なので、たいしたものはありません。その分、入手しやすいものが多いとおもいます。各項に付せられたコメントは私の個人的意見にすぎませんので念のため。他にも良い本、お薦めの本があれば、ぜひご連絡ください。紹介いたします。

初稿: 1999.8.13
1999.11.21 「聖書」の項 G-13,14,15追加
2000.08.19 「教会音楽」の項 E-10、「オルガン」の項 F-14、「聖書」の項 G-16追加、「その他」の項 H-10,11,12追加
2001.02.19 「教会音楽」の項 E-11〜14を追加
最終更新: 2001.03.22 「バッハ評伝」の項 A-12を追加


A. バッハ---評伝

1. J.N.フォルケル Johan Nicolaus Forkel
 「バッハの生涯と芸術」岩波文庫

基本。1802年に出版された最初の評伝。民族主義の影響がみられますが、近代的バッハ研究の先駆けとなった歴史的名著とされているようです。後述 B-3 バッハ叢書にも別な訳が含まれていて、そのほかにも訳があるようです。

2. A.シュバイツァー Albert Schweitzer
 「ヨハン・セバスチャン・バッハ」

知らない人はもぐりの有名な本。Ch.M.Widorのこれまた有名な序文がついています。邦訳は長らく古本屋でしか手に入りませんでしたが、1995年に白水社が復刊したそうです。私が持っているのは1957年の白水社刊行「シュバイツァー著作集」第12-14巻です。原著も割と簡単に手に入ります: "Johann Sebastian Bach" Breitkopf & Hertel

3. 角倉一朗
 「バッハ」音楽の友社「大音楽家・人と作品」1 [1963]

古いので手に入らないかも。「新バッハ研究に基づいた世界で最初の著書」だそうです。

4. 辻壮一
 「J.S.バッハ」岩波新書213[1982]

多分絶版。
...かと思っていたのですが、実は同じ著者が1955年ごろ岩波新書に加えた「バッハ」を念頭に置いていました。上の本はまだ売っているかもしれません。訂正します。

5. W.フェーリクス Werner Felix
 「J.S.バッハ 生涯と作品」 国際文化出版社 [1985]

原著1984年。図像が多く、きれいな本ですが、内容は濃い。訳者杉山好氏によると、この本は、次のA-6と「相互補完的関係」になるそうです。
最近講談社の学術文庫に入りました。

6. 礒山雅
 「バッハ=魂のエヴァンゲリスト」 東京書籍 [1985]

今や日本語評伝の標準でしょう。現在の学問水準が充分に反映されています。(でももう15年前の本になるんですね。私も歳をとった。:-) )  巻末の作品リストも大変役に立ちます。同じ著者で講談社現代新書にもあります。(「J.S.バッハ」[1990])

7. M.コルト/S.クールマン Michael Korth/Stephan Kuhlmann
 「バッハ 図像と証言でたどる生涯」 音楽の友社 [1990]

原著1985年。一種の史料集。バッハに関する基本的史料が網羅されたきれいな本です。

8. 三宅幸夫
 「バッハの生涯と作品 スフィンクスの嘆き」 五柳書院 [1992]

やや各論よりの評伝。最初に読むには不向きかもしれませんが、精読すれば面白い本です。

8. D.アーノルド Dennis Arnold
 「バッハ」 コンパクト評伝シリーズ 教文館 [1994]

小著ながらよくまとまった本。訳者はバッハの森文化財団代表と理事長です。:-) 初めて読むのに好適だとおもいます。訳者による参考文献リストや簡単な音楽用語集も付いていて、親切です。

9. P.デ・ブーシェ Paul du Bouchet
 「バッハ 神は我が王なり」 知の再発見叢書58 平凡社 [1996]

原著1988年。このシリーズの他の本と同様、豊富な図像を駆使してバッハの生涯とその時代に迫ります。日本語版監修者は樋口隆一氏。資料も豊富で、良い本です。

10. 久保田慶一
 「バッハの息子たち -バロックから古典派へ-」 音楽の友社 [1987]

おまけその1。J.S.バッハの音楽家となった4人の息子たちを中心に、大バッハ以後のバッハ家を記述。人生いろいろあるなあという感慨がわく本。

11. 伝 アンナ・マグダレーナ・バッハ  Anna Magdalena Bach
 「バッハの思い出」 ダヴィッド社 [1976]

おまけその2。J.S.バッハの2度目の妻が書いたとされていた「回想記」。後世に創作された小説ですが、いかにもありそうな、あって欲しいようなお話がたくさん書いてあります。小林秀雄が絶賛したので有名。最近講談社から文庫で出たようです。

この他にK.ガイリンガーの邦訳書[原著1966]があるようですが未読。重要な文献らしいです。バッハを主人公にした「小説」も出ているそうです。その他にもたくさんあります。たとえば、樋口隆一「バッハ」新潮文庫[1985]など。

2001.03.22増補
12. Martin Petzoldt
 "Bach Almanach" Evangelische Verlagsanstalt [2000]

題名を見て、お、バッハ年鑑(Bach Jahrbuch)の親戚か、と思ったあなた、期待は全然裏切られます。:-)
一年365日、否2月29日の記事もあるので366日のそれぞれにバッハに関わるどのような事件出来事があったかをまとめた本。3月21日の項にはもちろん、この日ヨハン・アンブロジウスとエリザベス・レンマーヒルトの間にヨハン・セバスチャン・バッハ生まれると書いてあるほか、1705年にヨハン・クリストフがアルンシュタット新教会のJudicaの主日聖餐式に出席したとか、1744年になにやらの遺贈金1タ−ラー8グロッシェンの受領書にサインしたとか、まあいろいろ書いてあります。本当に役に立つのかこんな本。でも買っちゃったけど。:-)


2002.09.17増補
13. M.ゲック Martin Geck
 「ヨハン セバスチャン バッハ」 東京書籍 [2001]

「もうこの著作なしではバッハは語れない」という思わせぶりのコピーがちょっと情けないのですが、原著を3巻にわけ、さらに訳者による「資料集」が別巻につくという、豪華美麗本。高い。:-) 内容は、評伝と作品各論。評伝は「最新の研究成果による」とはいえ、さすがにやや退屈なのは私が評伝に食傷しているから? 作品論の器楽編と、第四部「様々な地平」が面白いです。でも、高い。
(2001.09.17増補ここまで)


B. バッハ---総記

1. Wolfgang Schmieder
  "Thematische-systematisches Verzeichnis der Werke Johann Sebastian Bachs"
 第2版 Breitkopf & Hertel [1990]

世に言うBWV。とにかく「全部出ている」ので、細かい調べものには重宝ですが、高価なので図書館で利用しましょう。:-) ごく最近増補版(?)が出たそうです。

2. 角倉一朗 監修
 バッハ事典 音楽の友社 [1993]

なんでも出ている、というわけではありませんが、重宝な本です。特に関連人名が豊富。そんなに高くありません。(\6,500) この他にも礒山雅、小林義武、鳴海史生著の同名の本(東京書籍[1996])がありますが、持っていないので内容はよく知りません。楽曲解説をまとめたものだそうです。バッハの森の図書館にはありました。

3. 角倉一朗 監修
 バッハ叢書 全10巻、別巻2  白水社 [1997]

昔から出ていた基本文献集。特に第10巻の「バッハ資料集」は便利です。復刊なんだからもっと安くして欲しい。全部で\150,000もします。私は最初の刊本を持っていますが、それも高かった。別巻2の「作品目録」は、BWVより詳細な大変優れたものらしいですが、高くて買えません。:-)

4. バッハ全集 全15巻、小学館[1995-99]

この間やっと完結した、本とCDの組合せによる「全集」。とはいっても未収録曲はたくさんあります。本の方は毎号とも大変おもしろいです。篤志家によりすべての目次が公開されています。全部で\350,000くらいしました。高かったー。
と思ったら、別の「全集」がTeldec音源でまた出るとか。聞くところでは、真の「全集」に近いそうです。でも、さすがにLeonhardt/Harnoncourtのカンタータ全曲録音3組目を買う気になれないので、悩ましいところです。\220,000。



C. バッハ---作品論

1. 作曲家別名曲解説ライブラリー12 J.S.バッハ」 音楽の友社 [1993]

音楽の友社から出ている「最新名曲解説全集」からバッハの作品だけを選んで一冊にしたもの。BWV順ではなく、管弦楽曲→協奏曲→室内楽曲→無伴奏曲→鍵盤楽器→声楽曲とならび、最後にカンタータが来るという配列は、わが国の「クラシック音楽」受容の過去のあり方を如実に示していますね。執筆は錚々たる方々で、内容は信頼できます。

2. 樋口隆一 
 「バッハカンタータ研究」  音楽の友社 [1987]

新バッハ全集の校訂者として高名な著者の論文集。一応一般向けですが、決して水準を下げていません。

3. J.A.ウェストラップ Jack Allan Westrup
 「バッハ/カンタータ」 BBCミュージックガイドシリーズ3 日音楽譜出版社 [1981]

もう手に入らないのではないでしょうか。原著1966年。小冊子です。

4. Alfred Duerr
  "Die Kantaten von Johann Sebastian Bach" 5.Auflage Baerenreiter [1985]

現代カンタータ研究の最高権威による、カンタータ全曲の解説。業界人の必読文献。ペーパーバックも出ていて、簡単に手に入ります。
2000年に第6版がでました。小林義武氏などの最新の研究成果が反映されているようです。ペーパーバックは一巻本で便利になりました。

5. Christoph Wolff / Ton Koopman
 "Die Welt der Bach-Kantaten" Metzler/Baerenreiter[1996/8]

全3巻の論文集。著者の一人は、あのコープマンです。きれいな本ですが、日本で買うとバカみたいに高価です。邦訳が出ると聞いています。→ 出ましたね。日本語版(東京書籍)は普通の版型で、原著の豪華さはありませんが、日本語で読めるのはなんといっても楽でしょう。私はまだ買っていませんが。

6. Gerhard Herz
  "Bach Cantata No.4", "Bach Cantata No.140" Norton Critical Scores [1967/72]

スコアと詳細な分析。バッハのカンタータの仕組みがよく解る名著です。

7. 礒山雅
  「マタイ受難曲」 東京書籍[1994]

著者が「自分の四十代を費やした」という研究の集大成。音型論を駆使した全曲にわたる詳細な分析から浮かび上がるのは、やはりバッハの「凄さ」です。

8. H.ケラー Hermann Keller
  「バッハのオルガン作品」[1994]

原著1948年。BWVが完成する前です。さすがにもうやや古くなっている部分もあるようですが、特に第I部「時代と環境」は熟読に値すると思います。訳に少々難があるという話を聞いたことがあります。

9. Ewald Kooimann / Gerhard Weinberger / Hermann J. Busch
  "Zur Interpretation der Orgelmusik Joh.Seb.Bachs" Merseburger [1995]

バッハのオルガン作品演奏のために役立つ、当時のオルガンの仕様、演奏技法などの歴史的な事実に関する論文集。

10. Philippe Charru/Christoph Theobald
  "La pensee musicale de Jean-Sebastien Bach" cerf [1993]

広島のエリザベト音楽大学でも教えた経験のあるオルガニストと、ボン大学神学博士の共著になる、バッハのクラヴィア練習曲集第3巻の美学的・神学的分析。コラール歌詞を通じて教義と音楽がどのように結びついているかを精緻に分析しています。

2002.09.17増補
11. Arnold Werner-Jensen
  "J.S.Bach" Reclams Musikfuehrer [1993]

「レクラム音楽ガイド」の一巻。声楽と器楽がそれぞれ一冊になっており、カバーが共通というまことに読みにくい(ってそのまま読むからだけど)体裁になっております。解説は簡潔で親切。演奏小史とディスコグラフィーが付録で付いています。C-1のドイツ語版みたいな感じ。

12. Meinrad Walter
  "Erschallet, ihr Lieder, erklinget, ihr Saiten!" Benziger [1999]

副題は"J.S.Bachs Musik im Jahreskreis"。教会暦にそって配列されたバッハカンタータへのコメンタール。題名はいうまでもなく、聖霊降臨祭のカンタータBWV172からとられています。見出しとしてあげられたカンタータは8曲(一部受難曲等を含む)。信仰・神学と音楽言語の関係をくわしく述べていて有用だとおもいます。まあこういう本は全然不要という方もいるでしょうけれど。
(2002.09.17増補ここまで)



D. バッハ---その他

1. 角倉一朗 編
  「バッハへの新しい視点」 音楽の友社 [1988]

1985年に「音楽芸術」誌に連載された論文をまとめたもの。日本を代表するバッハ研究者が、それぞれの専門分野で執筆していて壮観です。

2. 樋口隆一
  「バッハ探求」新装版 春秋社 [1996]

新装版でないほうを持っているはずなのですが、手許に見あたらないので内容にはコメントできません。あしからずご了承ください。:-)
→発見しました。バッハの生涯、受容史、作品論、演奏論、研究状況に関する論文集。新装版がどう変わったのかは存じません。

3. 東川清一
  「バッハ研究ノート--作曲年代をめぐって」 音楽の友社 [1981]

これも持っているはずなのですが、手許に見あたらないので内容にはコメントできません。あしからずご了承ください。:-)

4. 小林義武
  「バッハ--伝承の謎を追う」 春秋社 [1995]

バッハ作品の手稿譜紙質や透かし専門家である著者の論文集。「史料に基づく音楽学研究」というものがどういうものであるか、その一端を見ることができます。

5. 音楽の手帖 「バッハ」  青土社 [1979]

昔出ていた「音楽の手帖」シリーズのなかの1巻。今でもときどき古本屋さんで見かけます。重要な論文の邦訳も載っていて、持っていて損はありません。見つけたら買いましょう。

6. ユリイカ 「特集 バッハ」  青土社 [1996.1]

どちらかというとエッセー集ですが、礒山雅さんと鈴木雅明さんの大変面白い対談が載っています。これだけでも読む価値があります。

7. 丸山桂介
  「バッハ ロゴスの響き」 春秋社 [1994]

著者にはバッハ奉職当時のライプツィヒの礼拝に関する専門的な著書もありますが、この本には、音楽学というよりはむしろ音楽美学に属する文章が収めてあります。かなりムズカシイです。

8. 角倉一朗/渡辺健 編
  「バッハ頌」 白水社 [1972 新装復刊1995]

古今東西の音楽家、作家、文化人などがバッハについて語った言葉・文章を集めたオマージュ集。各時代のバッハ理解の変遷をたどることができ、それはそのまま一種の文化史になっています。寝ころんでつまみ読みしましょう。少し重いですが。

9. 長與惠美子
  「ルターからバッハへの二百年」 東京音楽社 [1987]

M.ルターからバッハに到るコラール音楽の歴史をたどります。著者は必ずしも音楽学の専門家ではないようですが、コラールに関する資料の詰まった、重宝な本です。



E. 教会音楽

1. GRADUALE TRIPLEX Abbye Saint-Pierre de Solesmes [1973]

グレゴリオ聖歌の楽譜集。普通の4線譜の上下に、古い写本のネウマ記号が2種(Laon, Saint-Gall)並記してあります。解読には下記E-2を読みましょう。序文以外はすべてラテン語。より簡単なものとして、"Liber Cantualis" dito[1978]などがあります。

2. E.カルディーヌ Dom Eugene Cardine
  「グレゴリオ聖歌セミオロジー」音楽の友社 [1979]

「グレゴリオ聖歌セミオロジー」という学問領域を切り開いた碩学の著した理論書。グレゴリオ聖歌を深く知るためには絶対読まなくてはなりません。でもこの本を読みすぎて、「記号」にとらわれた朗唱をするようになってはいけない、と橋本周子さんは仰っています。それにしてもこの本、出版以来1997年まで6刷を重ねています。日本ってすごい国ですねえ。:-)

3. 水嶋良雄
  「グレゴリオ聖歌」音楽の友社 [1966]

上記E-3の訳者でもある日本のグレゴリオ聖歌研究の大御所の著書。いわゆる「ソレム唱法」の詳細な解説書です。この本も出版以来1995年で19刷。だんだん版が傷んできているのに、定価はどんどん高くなります。音楽の友社さん何とかしてください。:-)

このほかに、白水社の文庫クセジュにグレゴリオ聖歌の本があります。買ったけれどまだ読んでいません。:-) また国内唯一の「業界誌」:「礼拝と音楽」89(日本基督教団出版局[1996.5])はグレゴリオ聖歌を特集しています。

4. 辻 壮一
  「キリスト教音楽の歴史」 日本基督教団出版局 [1979]

典礼・礼拝の様式とその音楽の歴史。簡潔ながら、この分野の基本図書です。手許に見あたらない。
→発見しました。この本によると、上記C-4は邦訳が出ているはずなのですが、どうなったのでしょうか。

5. Paul-Gerhard Nohl
  "Lateinische Kirchenmusiktexte" Baerenreiter [1996]

ミサ通常文、レクイエム、マニフィカト、ディキシット・ドミヌス、テ・デウム、スタバト・マーテルの典礼用詞文について、その由来、変遷、註解などを収めた本。ドイツ語も易しく、私は大変重宝しています。ペーパーバックで安価。最近、同じ著者が"Geistliche Oratorientexte"(同[2002])なる姉妹編を出しました。「メサイア」「天地創造」「エリア」「ドイツレクイエム」の歌詞を同工に扱っています。

6.  Evangelisches Kirchen Gesangbuch

ドイツ福音派教会の賛美歌集。私が持っているのは: Aufgabe fuer die Nordelbische Evangelisch-Lutherische Kirche 48.Auflage [1987]というものです。賛美歌、朗唱、祈りの言葉の他、ルターの「小教理問答」と、メランヒトンの「アウグスブルク信仰告白」が載っています。基本図書ですね。

7. 横坂康彦
  「教会音楽史と賛美歌学」 日本基督教団出版局 [1993]

手許に見あたらない。持っていたはずなのに。

8. バロック音楽研究会 編
  「教会カンタータの成立と展開」 アカデミア・ミュージック [1993]

バッハ以前のドイツ教会カンタータ史を、9名が分担執筆。J.H.シャイン、D.ブクステフーデ、J.クーナウなどの作曲家に関する各論も含む。豊富な付録資料も便利なお買い得本。まだ売っているでしょうか。

9. 相良憲昭
  「音楽史のなかのミサ曲」 音楽の友社 [1993]

ミサ音楽の歴史をその起源から現代に到るまで、ていねいにたどった本。資料集として使えます。

2000.08.19増補
10. カール・パリシュ Carl Parrish
  「初期音楽の宝庫」 音楽之友社 [1974]

今更ですが、個人的思い入れの強い本をひとつ。いわゆる「アンソロジー」で、音楽史にそって、時代の様式を代表する曲を原則として完全な演奏譜をつけて解説したもの。原著1958年。1970年代の中頃、田舎の古楽好き高校生にはこれくらいしか「参考書」はありませんでした。たまたま本屋で見つけたこの本を大枚2000円くらいをはたいて買い、むさぼるように読んだものでした。実はこの本は「続編」で、「正編」にあたる、パリシュとジョン・オール John F. Ohl「音楽史 グレゴリオ聖歌からバッハまでの音楽」(音楽之友社[1958 原著1951])もすぐに手に入れ、まじめに読みました。学校の教科書よかよほどまじめに読んだ気がします。:-) この手の本は現在はさらにいくつか出ていて、たとえば: O.ハンブルク Otto Hamburg編著「五線譜でたどる音楽の歴史」(アカデミア・ミュージック[1982 原著1973])とか、美山良夫 茂木博「音楽史の名曲」(春秋社1981)などがあります。もともと音大の教科書としてはこういうものは古くからあったようです。古い時代のものは譜例が上記の各書で重複している場合が結構あります。

2001.02.19増補
11. ジョン・ハーパー John Harper
  「中世キリスト教の典礼と音楽」 教文館 [2000]

原著1999年。原題は"The Forms and Orders of Western Liturgy"とあり、中世のみならず10世紀から18世紀までの典礼とその音楽をあつかっています。といっても叙述の中心は単旋律聖歌でして、たとえば上記E-1のようなグレゴリオ聖歌集の手引きとして書かれています。教会暦や聖務日課については詳細な記述があります。それでも抄訳だそうですが。:-) 聖務日課の詩篇唱の一覧や、教会音楽用語集などの大変充実した付録も付いていて、お買い得です。ただし、ルター派に関する記述はなく、英国国教会の典礼に1章が割かれています。

12.「改革教会と音楽」 エルピス

前に挙げた「国内唯一の業界誌」の他にもこういう雑誌が出ていることを最近知りました。改革派教会、すなわちカルヴァン派の教会音楽に関する論考を主体とする雑誌です。現在のところ3号まで出ているようです。"musica ecclesiae reformatae semper reformandae"「常に改革し続ける改革派教会の音楽」と表紙に記してあります。ジュネーブ詩篇歌等に関するいろいろな情報が得られます。ところでジュネーブ詩篇歌といえば:

13. 木岡英三郎
  「歴史的カルヴァン詩篇歌の初版宝典」 使信社及基督教音楽出版 [1979]

というスバラシイ本が手に入ります。「讃美歌の歴史的宝典(其の一)」と銘打たれたこの本、1539年ストラスブール刊の詩篇歌集のファクシミリの他、和声訳詞付き演奏譜、詩篇歌に基づく多声音楽の譜例、その他解説おまけ等ついてたったの\2,000で買えるという、ほとんど気の遠くなるようなお買い得本です。いったい著作権とかはどうなっているのでしょうか。:-) この木岡英三郎さんという方に私大変興味があるのですが、どなたか文献等ご存じの方は御教示ください。(日本オルガン研究会の会報に少し記事があるらしいですが未見。) ちなみに、「日本語によるジュネーブ詩編歌」なるCDが発売されています(Michtam 30MCD-1026)。演奏は、指揮/オルガンの鈴木雅明氏に率いられた「バッハ・コレギウム・ジャパン」の皆さん。華々しい御活躍が目立つ鈴木さんですが、こういう「地味」な活動もなさっています。(もちろん彼にとってはどちらの活動も違いはないのでしょうが、そういうことを理解している聴衆が日本にどれだけいるか...。) ただし歌詞は上記木岡さんのものではありません。ところでファクシミリといえば、昨年ドイツへ行った比留間恵さんに買ってきてもらったのが:

14. "Das Bapstsche Gesangbuch 1545" Baerenreiter-Verlag [1988]

復刻第3版だそうです。"Geystliche Lieder / Mit einer newen vorrhede"と表紙にあります。もちろん"Vorrede"序文を書いたのはマルティン・ルターです。Luther派のコラール集の基本文献。銅版の挿し絵にいろいろ描き込んであっておもしろい。表紙の下の方にもなにやら韻文でコワイことが書いてあります。亀の子文字は読むのがかなり難儀ですが。

(2001.02.19増補ここまで)





F. オルガン

1. H.クロッツ Hans.Klotz
  「オルガンのすべて」改訂増補第3版 パックスビジョン [1991]

原著第10版が1985年、初版は1937年だそうです。つまり大ロングセラーなのでしょう。率直に言って、日本語で読めるオルガン関係の解説書で、初心者にすすめられるのは、これと次のF-2だけです。第3版は原著10版の改訂を反映していますが、ペーパーバックになりました。記述はややドイツよりで、その他の国に関する部分には多少問題があるという話もききますが、買って損はしません。

2. 秋元道雄 
  「パイプオルガンの本」増補改訂 東京音楽社 [1989]

オルガンの歴史、様式、構造、演奏技法、作品について一通り解説してあります。著者は東京芸大で永らく後進の指導に当たられた方で、この本もオルガニスト育成に役立つようにと書かれたようです。全然オルガンのことをご存じない方はこの本を最初に読まれると良いでしょう。所々に現れる「...であります。」文体が、著者のお人柄を髣髴とさせます。:-)

3. N.デュフルク Nobert Dufourcq
  「パイプオルガン」文庫クセジュ 白水社 [1975]

原著1970年。昔からある本(というより、昔はこの本くらいしかなかった)ですが、文庫の制約から図版がほとんどないのと、訳文がいかにも生硬で文意がとりにくいことから、初心者にはちょっと薦められません。オルガン音楽史としての記述は詳細なので、一通りのオルガンの知識がある方が読むといいでしょう。

4. 平島達治  
  「オルガンの歴史とその原理」 パックスビジョン [1980]

良いオルガンを作るためにはどうしたらよいか。この問の答えを、「歴史的楽器」の建造技法に求めてなされた調査・研究の書。やや専門的なので、興味のある方が読めばよいでしょう。かつては松蔭女子学院大学学術研究会から発行されていたようです。

5. Friedrich Jacob  
  "Die Orgel" Schott [1987]

初版が1969年、私の手許にあるのは第6版。やはりロングセラーなのでしょう。小著ですが、きれいな図版が多く、オルガンの歴史と構造を簡潔にまとめています。だれか翻訳してくれないでしょうか。

6. William Leslie Sumner  
  "The Organ" Macdonald & Co [1973]

初版が1952年、私の手許にあるのは第3版[1973]のリプリント[1981]。600頁を越える厚い本です。英国と北米大陸など英語文化圏のオルガンに関する記述が詳しいのが特徴で、そのわりにイベリア半島や東欧、南米などに関する記述は手薄です。巻末に144種ものオルガンの仕様表が載っています。

7. A.ナイランド Austin Niland 
  「オルガン入門」 音楽の友社 [1988]

原著1968年。英国人が英国人のために書いた本、という性格を頭に入れて読む必要があります。イギリスのオルガンについて知りたい時には好都合。

8. 佐々木しのぶ 
  「教会オルガニスト教本」 日本基督教団出版局 [1988]

その名の通り、教会で奏楽を奉仕するオルガニストのための教科書。オルガンに関する解説の他、礼拝・典礼の形式に関する記述や「教会オルガニストの心得」なども載っている便利な本ですが、やはり題名の通りのひとを読者にする本でしょう。

9. J.C.グッド J.C.Goode
  「オルガン演奏ハンドブック」 パックスビジョン [1981]

原著1964年。アメリカの「流派」による演奏副読本。現代アメリカのオルガン音楽について知りたいときに便利です。

10/11. V.ルーカス Victor Lukas
  「オルガンの名曲」 パックスビジョン [1983]
  「現代のオルガン音楽」 パックスビジョン [1989]

F-10は原著第4版1979年、その第5版[1986]の増補部分を別に訳出したのがF-11。オルガン音楽の辞書みたいなものです。譜例と解説。F-11には簡単ですが日本の現代作品に関する記述もあります。海外にはもっと詳しい本があるそうです。大林さんのWebページを参照してください。

12. 辻 宏 
  「風の歌」 日本基督教団出版局 [1988]

バッハの森のポジティフ・オルガンの作者である辻さんの、オルガン製作にたいする考え方を述べた本。バッハの森の大きなオルガンを製作したJ.アーレント氏や、その盟友のオルガニスト H.フォーゲル氏の、伝統的オルガン製作技法の復興にかけた情熱が伝わってきます。その成果を直接確かめたい方は、是非バッハの森へお越しください。:-)

13. George Ashdown Audsley  
  "The Art of Organ-Building" Vol.1/2 Dover [1965]

刊行は1905年。手許にあるのはDoverのリプリント版でペーパーバックです。ハードカバーもあるはずです。20世紀初頭のオルガン建造技術が詳細に記述されています。オタク本です。

2000.08.19増補
14. Wilfriet Praet 他編
  「オルガン辞書」"Orgelwoordenboek" Ed. CEOS [2000]

すごい本です。大体1800語くらいのオルガン用語が欧州の言語18ヶ国語(!!)と日本語で対照されています:カタルニャ語チェク語デンマーク語ドイツ語英語スペイン語エスペラント(!)フィンランド語フランス語ハンガリー語イタリア語ラテン語オランダ語ノルウェー語ポルトガル語ルーマニア語ロシア語スウェーデン語日本語。第2版だそうです。ただし音栓名は収録していません。地域差が大きすぎて対照できない由。さすがに序文などはすべての言語では書けなかったようで、いくつかが凡例のみとなっています。どのみち読める人はそう居ないでしょうけど。ラテン語の序文もあります。:-) 国内では日本オルガン研究会が頒布しています。内容を考えたら信じられないくらい安価。オルガンオタク必携。早く買わないと無くなります。:-)

(2000.08.19増補ここまで)





G. 聖書

1. 旧新約聖書 

なんといっても聖書そのものを読むのが手始めでしょう。以下のものを私は持っています。
このほかにも、岩波から分冊で出ている新しい訳のシリーズや、岩波文庫のものなどがあります。現在では新共同訳が標準とされているようです。他にもあったら教えてください。

2. NOVA VULGATA BIBLIORUM SACRORUM EDITIO 
  Libreria Editrice Vaticana editio typica altera [1986]

いわゆる「ウルガータ」聖書の現代版、ヴァチカン公認のラテン語聖書です。現教皇の序文から註からなにからなにまで全部ラテン語しか書いてありません。そのつもりで読みましょう。:-)

3. Die Bibel nach der Uebersetzung Martin Luthers 
  Deutsche Bibelgesellschaft Stuttgart [1985]

「マルチン・ルター訳による」、ドイツ語訳聖書。とはいってもルターの原文とはかなり異なるようです。

4. Nestle-Arland 
  Novum Testamentum Graece 27. Auflage
  Deutsche Bibelgesellschaft Stuttgart [1993]

新約聖書のギリシャ語原文の校訂書。業界の基本文献です。私が持っているのは: 英語訳対訳(Revised Standard Edtion 2nd ed. [1971])のついた"Greek-English New Testament" 8th ed. [1994]というものです。ギリシャ語で読むたとえばマニフィカト(ルカ1.47-55)は、また別な味わいです。でもたしかにこれで読むのはかなりしんどいので、いわゆるInterlinearの対訳本を買うのも良いでしょう。私が持っているのは:

 Sir Jay P. Green
 Interlinear Greek-English Testament 3rd ed. Bakerbooks [1996]

で、ギリシャ語本文は、いわゆるTextus Receptus(多少の異同はあるようですが)、これに欽定訳と"A Litteral Translation of Holy Bible"なるものが添えてあります。大変便利。類書も多くあるようです。

5. 田川建三 
  「書物としての新約聖書」 剄草書房 [1997]

独創的業績と歯に衣着せぬ独特の語り口で知られる新約聖書学者の最新刊。新約聖書の正典化、言語、写本と正文批判、翻訳について詳しく解説しています。日本語翻訳の長所短所に関する部分は、大いに参考になるでしょう。

6. 高橋正男 
  「旧約聖書の世界」 時事通信社 [1990]

旧約聖書が伝える古代ユダヤ史を、考古学、文献学の成果を用いて詳細に解説。記述は創世記から死海文書までを一区切りとし、その後現代に到るエルサレムの運命にまで及びます。

7. 松本富士男 編
  「図説・歴史の中の聖書」 増補改訂版 燦葉出版社 [1996]

おそらくキリスト教系の大学で教科書として使うために書かれた本のようです。高校歴史の副読本によくある「資料集」のような感じの本ですが、ずいぶん色々なことが載っていて、持っていて損はありません。

8. ライオン出版社 編
  「カラー聖書の歴史地図」 いのちのことば社 [1991]

このたぐいの本はたくさんあるようです。パレスチナと東地中海世界の具体的なイメージがつかめるようになるでしょう。他に良い本があれば教えてください。

9. ミルトス編集部 編
  「イスラエルに見る聖書の世界」 ミルトス [1987]

旧約聖書編、新約聖書編の2冊からなります。使徒行伝編もあるそうですが未見。大判の写真集で、とても美しい本です。

10. J.ロバーツ Jenny Roberts
  「復原透視図 聖書の世界」 三省堂 [1997]

面白いので、この手のものをもう1点だけ。原著1996年。聖書にまつわる様々な場所の現在の写真の上に、透明紙に印刷した当時の復原図を重ねると、往時の姿が偲べる(変わらない部分は透明紙から透けて見える)という趣向の本です。国内版は、製本精度があまり良くないページもあるのが難点。原著はこのあいだ見かけましたが、中まで見ていないのでその点は確認していません。

11. 木田献一/山内 眞/土岐健治 編
  「聖書の世界」 増補新版 自由国民社 [1988]

「総解説」シリーズなどで知られる自由国民社のハンドブック。一般向けの割には細かい内容で、編者たちはもしかしたら出版元の意図を理解していなかったのかもしれません。:-) このほかにH.H.ハーレイなる人の「聖書ハンドブック」(聖書図書刊行会/いのちのことば社[1980、原著第24版1965])を持っていますが、少し原理主義(fundamentalism)の匂いがします。

12. 現代思想 特集「聖書は知られているか」
  「現代思想」vol26-5 青土社 [1998.5]

オタクいや違った、賢い系雑誌「現代思想」の聖書特集。日本の主だった旧・新約聖書学者が寄稿しています。この本によると最近は「聖書ブーム」なんだそうです。現代思想界お得意のグノーシス派に関する論文が3つある他、雑誌の性格上、聖書をめぐる政治的状況と、フェミニズム神学に関する論文がそれぞれ2つずつあるのが眼を引きます。

聖書に関する本はそれこそたくさんあります。ここには教義・神学に関する本は挙げませんでした。聖書の成立過程や時代背景に関する日本語の本は他にもいくつかあり、ごく最近にもでていますが、玉石混淆のようです。

1999.11.21増補
13. The Holy Bible / 1611 Edition / King James Version

言わずとしれた欽定訳聖書ですが、これは1611年の初版本の復刻[1911]のそのまたリプリントです。いくつか出ているようですが、私が入手したものは、Thomas Nelson Publisersのものです。活字は近代のものになっていますが、綴りは初版に従っている(例えばhaveはhaueとなっている)ほか、序文がそのままついています。日本では研究社が1985年に同様な復刻本を出しているそうですが、版元品切れ再版予定なしとのことです。また、初版本そのもののファクシミリも1982年に南雲堂から発行されているらしいです。
1611年初版というのは実は3種類もあるんだそうですが、これはいわゆる"he Bible"です。"he Bible"とは、旧約ルツ記3:15の最後の文の主語が"he"になっているもので、これが単なる誤植のせいとする説や、旧約原典の「マソラ本文」の写本の読みのゆれに起因しているという説など、いろいろあってよくわからないのですが、現行のKJVはみな"she"になっている一方、例えば新共同訳は「ボアズ(= he)は」と訳しています。ついでにいうと、Vulgataは"quae"(= she)、現行ドイツ語訳(Luther訳による)は"er"( =he)、Revised Standard Versionは"she"、Louis Segond訳[1910]では"il"(= he), 大正文語訳は"彼"、口語訳は"彼女"となっていますが、まあどっちでも文意に大差ないので、オタクの領域に属する事柄とも言えましょう。:-) なんで欽定訳なんかとりあげるかというと、欽定訳を大々的に使っている宗教音楽といえば...。以下はお楽しみとしましょう。

なお、田川健三さんの「書物としての新約聖書」によると、実は欽定訳ではなくGeneve訳聖書を引用している部分があるんだそうですが、いったいどこなのか私にはいまのところ全然見当がつきません。どなたかご教示ください。

註) 上記の文が書かれた1999年秋の次のシーズンに、バッハの森ではG.F.ヘンデルの「メサイア」をとりあげました。小さな文字の追記はもちろん「メサイア」のテキストに関する話です。

14. 橋本 功
  「聖書の英語」 英潮社 [1995]

欽定訳聖書の訳文が以下に原文のヘブライ語の語彙、文法に影響されているかを綿密に検討した本。"King of kings, Lord of lords"などという表現が実はヘブライ語の「最上級」に由来するなんてことを教えてくれるありがたい本です。 下のH-1に似ていますね。厚さの割には高価なのが難点です。

と書きましたが、少なくとも上の"King of kings, Lord of lords"に関しては最上級の表現ではなく、ちゃんと別に例のある慣用句らしいです。

15. 永嶋大典
  「英訳聖書の歴史」 研究社 [1988]

その名の通り聖書英訳の歴史をやや詳しく解説しています。各翻訳の例文が、聖書の同一箇所を使って引用してあるのが親切で面白い。日本語への翻訳史が付録でついています。

15. Ed.G.Dobson et al
  The K.J.V Parallel Bible Commemtary Thomas Nelson Publishers[1994]

厚さの割に安かったのでうっかり買ってしまいましたが、序文に: "While each (author) has been allowed the freedom of his personal views, all share a faith in these fundamental beliefs of evangelical Christianity: the inerrant inspiration of Scripture..."とあるように、いわゆる「福音主義」の人たちの本のようです。現代綴りになおした本文と平行して、本文の10倍くらいの分量の註解が同じページに印刷されています。著者たちの立場を踏まえて読めば、それなりに情報が得られる便利な本です。

2000.08.19増補
16. 荒井 献 川嶋貞雄 監修
  「四福音書対観表 ギリシア語-日本語版」 日本基督教団出版局 [2000]

K.Arlandの編纂にかかる" Synopsis Quattuor Evangeliprum"の英語版"Synopsis on Four Gospels 10th Ed"[1993]の翻訳。Synopsis「対観表」とは、マルコ/マタイ/ルカ/ヨハネの4福音書を、その記事内容が対応している(似ている)部分を並べ、ひとめで読み比べられるようにしたもので、専門家必携の資料です。少し詳しく福音書を読もうと思うひとにも役に立つと思います。ギリシャ語本文はNestle-Arlandの26版の由。現行27版(→F-4)とはそんなに違わないそうです。ただの翻訳じゃ意味がない(そもそも英語が読めない人はこんな本必要としないはず)ので、この本の存在価値は日本語聖書部分にあるでしょう。すなわち日本語は新共同訳を添えてありますが、口語訳、新改訳、フランシスコ会訳、岩波書店訳の違いがわかるように欄外注がついています。大変おもしろい。高いけど。え、やっぱりオタク本だって? :-)

(2000.08.19増補ここまで)





H. その他

1. W.E.Plater/H.J.White
  "A Grammar of the Vulgate" Oxford Univ. Press [1926]

再刊1997年。ウルガータ聖書のラテン語の特徴に関する教科書。小著ですが、充実しています。当然ですが、読者がラテン語とギリシャ語が読めることが前提に書かれていますが、それらがさほど読めなくても、基本的文法知識があればさほど困難なく内容を把握できます。

2. 大西英文
  「はじめてのラテン語」 講談社現代新書 [1997]

現代新書の「語学初めて」シリーズにもついにラテン語が登場かーと、一部の人々(って誰だ(?))をうならせた本。小冊の中に基本的な文法が手際よくまとめてあります。本格的な教科書は、リンクのページで識者のご教示を受けてください。私が学生時代に使ったのは: 松平千秋/国原吉之助 「新ラテン文法」4訂版 南江堂[1979]です。この本は最近は東洋出版発行となっています。そのほかには: 有田 潤 「インデックス式ラテン文法表」 白水社[1984]が便利です。

3. J.Gresham Machen
  「新約聖書ギリシャ語原典入門」 新生教宣団 [1967]

原著発行年は不明ですが、40版以上出ているそうです。数多あるこの類の本の中では、もっとも有名らしい。古典ギリシャ語を知らない人のために書かれています。もっと易しいのが欲しい方には: 野口 誠 「聖書ギリシャ語入門」改訂新版 いのちのことば社[1990]。私事ですが、著者は石岡市の教会の牧師さんで、私の小学生時代の英語の先生です。:-) 古典ギリシャ語の文法を一通りご存じの方には: S.E.ポーター Stanley E.Porter 「ギリシャ語新約聖書の語法」 ナザレ企画[1998、原著1995]という中級文法書もあります。古典ギリシャ語の教科書は...学生の頃岩波全書の田中美知太郎/松平千秋「ギリシャ語入門」改訂版[1962]を少し読みましたが、挫折しました。:-) 田川建三さんによると、初めはきちんと古典ギリシャ語を勉強したほうがいいそうです。

4. 片山 徹
  「旧約聖書ヘブライ語入門」 キリスト教図書出版社 [1986]

本文のほとんどが手書き原稿の写真版です。ベブライ文字の印刷はお金がかかるのでしょう。後半に原典の抜粋がたくさん載っています。白状しますが、最初の20ページくらいで私は挫折しました。セム語は難しい。:-) 発音カセットテープが発売されてます。 類書は多いようです。

5. アット・プリモ 「わかって歌おう」シリーズ
  「レクイエム発音講座」 ビクター・エンタテインメントPRCD-5212 [1996]

これは解説書付きのCDです。エルマンノ・アリエンティ Ermanno Arientiさんというイタリアの方が、「ローマ・カトリックの流れに基づく」発音で、レクイエムとミサ通常文を朗読した音声が入っています。発音練習なんてものもついています。なかなか面白いです。著者によれば、「ラテン語の発音について世界中で一番研究しているのは日本人かもしれない」そうです。:-) 朗読したテキストにわずかな間違いがあります。どこだかさがしてみましょう。:-) 
ではヘブライ語が聴けるCDはないかって? 私が持っている中では例えば次のものがそうです。:

 Petr Eben "Job" narrator: Moshe Yegar, Organ: Tomas Thon
 Supraphon SU0181-2 931 [1995]

旧約ヨブ記を題材にしたオルガン曲です。曲のあいだにヨブ記原典の朗読が入っています。朗読者はイスラエルの駐チェコ大使。パンフレットには朗読されたヨブ記の原文も掲載されています。

6. 前島儀一郎
  「英独仏語・古典語比較文法」 大学書林 [1989]

印欧語に属する英独仏の近代語とギリシャ語、ラテン語の比較文法。古典語だけでなく、例えば英語についてもいろいろなことを教えてくれます。大変有益。最近、類書で: 風間喜代二「ラテン語とギリシャ語」 三省堂[1998]が出ました。

7. 上智大学中世思想研究所 編訳/監修
  「キリスト教史」 全11巻 平凡社ライブラリ[1996-]

原著1963-78年、日本訳の初刊は1980-82年。各巻ともきわめて詳細な記述。当面、第1-6巻くらいまであれば、私たちの目的には足ります:すなわち第1巻「初代教会」、第2巻「教父時代」、第3巻「中世キリスト教の成立」、第4巻「中世キリスト教の発展」、第5巻「信仰分裂の時代」、第6巻「バロック時代のキリスト教」。このほかにW.ウォーカー Williston Walker「キリスト教史」全4巻 ヨルダン社[1984]にも目を通しましたが、叙述はずっと簡略です。

8. K.ブラシュケ Karlheinz Blaschke
  「ルター時代のザクセン」 ヨルダン社 [1981]

原著1970年。宗教改革の思想的な面に関する数多の書籍はしばらく措いて、これは社会・経済・文化史の本です。特に後半で、ドイツ人文主義というものの実体を具体的実証的に述べています。あまりバッハと関係はないかな。

9. N.アーノンクール Nicolaus Harnoncourt
  「古楽とは何か」 音楽の友社 [1997]

原著1982年、原題「鳴り響く語りとしての音楽--新しい音楽理解への道」"Musik als Klangrede Wege zu einem neuen Musikverstaendnis"。 音楽がそれを生み出した時代の精神・文化とわかちがたく結びついている以上、それらに対する知識なしでは決して音楽の真の理解には到達し得ない、ということを繰り返し述べています。たまにはこの人もいいこと言いますね。原著はBaerenreiterからペーパーバックでも出ていますが、洋書店で買うと高いです。同じ著者の邦訳書は他に:「音楽は対話である」 アカデミア・ミュージック[1992,原著1984]があります。

2000.08.19増補
10. 岩隈 直 
  「増補改訂 新約ギリシヤ語辞典」 山本書店 [1993(増補第4版)]

語彙・語義と用例を新約聖書原典に限った辞書。ほぼ新約聖書原典を読むためにのみ使えます。語数5791。現在手に入る唯一の聖書ギリシャ語辞典のようです。というのも、玉川さんという方が書いたもう一冊の辞書が出ているはずなのですが、全然見あたらないからです。もっともそちらは値段が倍近くするのでわざわざ探すのも難儀ではあります。岩隈さんは本書の姉妹編として「新約ギリシヤ語逆引き辞典」なるものも出版しています。これはいわゆる"analytical lexicon"に相当するもので、聖書原典に現れる語をそのまま見出しにして、その語の「辞書に載っている形」が判るようになっている辞書です。どうしてこういうものがいるかというと、ギリシャ語の語形変化が複雑で、語頭の形まで変わることがあるため、文法に習熟していないうちは辞書を引くことすらままならないことがあるからです。この「逆引き」は私の手元にはありませんが、代わりにCleon.L.Rogers Jr. & III "The New Linguistic and Exegetical Key to the Greek New Testament" (Zondervan Publishing House [1998])というのを買ってしまいました。これも厚さの割に安かったのですで。章節の順にめぼしい単語の文法説明と「評釈」が載っています。「評釈」は過去の註解書からの集成で、なかなかおもしろいです。訓古学ですね。

11. W.ナーゲル William Nagel
  「キリスト教礼拝史 改訂版」 教文館 [1998]

原著1970年。イエスの時代の「典礼」から第2バチカン公会議以降までの礼拝の歴史を簡潔に叙述するほか、カトリックの「聖務日課」や教会暦などについても記述があり、よくまとまった本です。著者がドイツ・ルター派神学者だけあって、特にバッハに関係の深いルター派の礼拝改革については詳しく述べられています。

12. 山我哲雄 佐藤 研
  「旧約新約聖書時代史」 教文館 [1997]

同じ教文館から出ている「聖書大事典」の巻末年表に解説を付したもの。解説が240頁、年表が40頁。解説は一般向けには十分すぎるくらい詳しく、メソポタミア・エジプト・ギリシャとパレスチナの歴史的関係がみっちりおさらいできます。聖書は旧約新約とも、歴史背景を知らないと全然訳が解らない点が多々あります。ここまで詳しい本でなくてもいいので、歴史のお勉強はしておいた方がなにかと得です。

2002.09.17増補
13. J.A.ユングマン Josef Andreas Jungmann
  「古代キリスト教典礼史」 平凡社 [1997]

原書1967。カトリックの典礼について、初代教会からグレゴリウス1世の直前までを扱っています。大部ですが、読むに足る本です。音楽のことはあまり出ていない。
(2002.09.17増補ここまで)